CRC 会員の皆様 新聞報道等で既にご承知のことと思いますが、東京大学宇宙線研究所神岡 宇宙素粒子施設の所有するスーパーカミオカンデ実験装置内の光電子増倍管が 大量破損する事故が起こりました。 諸般の事情により事故関係の報告が遅れて、皆様には無用のご心配をおかけす ることになりましたことをお詫びします。 11月22日に神岡の現地にて第1回の原因究明等委員会が開催され、原因究明が 一定の軌道にのりつつあります今、事故関連の報告をまとめて致します。 東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設では、スーパー神岡実験開始後、 約5年を経過しましたが、本年7月中旬から、実験開始後に始めて、5万トンの 水を抜き、故障増倍管の交換作業を行っていたところであります。 この改修工事も終わり、純水の注入が8月下旬から始まりました。 事故当時、タンクは純水で全体の約8割満たされた状態になっておりました。 因みに、水タンクは円筒形で、底面の直径約40メートル、高さ約40メートルで ありまして、壁面、上面、底面に、光センサーとして、直径50センチメートル、 合計11,146本の光電子増倍管がとりつけてあります。 去る11月12日(月)の午前11時、スーパーカミオカンデ装置内部で 光電子増倍管に破損事故が起こり、約60%が数秒間で破壊されました。 事故当時3名が坑内で作業を行っていましたが、報告によると事故当時、轟音を 伴う激しい揺れが感じられたとのことです。 その後、装置から8.8Km 離れた京都大学防災研究所の地震計がマグニチュードー 0.3の事故を捕らえていたことが判明しています。 事故直前まで順調にデータ取得が続いておりましたが、事故直後、点検のために 増倍管の高電圧が切られました。 事故の約40分後に、タンク上面を開けて、ゴンドラで水面に降り研究者が状況 を目視しました。また、後に水中カメラを降ろして調べた結果によりますと、 内水槽の合計損壊数は6661本です。信号確認による破壊本数は6779本です。 また、外水槽アンタイ増倍管の損壊数は1017本(全1895本)です。 残る増倍管本数が正常に作動していることは、宇宙線ミューオンの観測により 証明されています 事故以降、装置内水面低下が観測されています。3.7トン/時に相当する流失量 です。 水漏れに関連して問題になるのは、事故後のタンク内の水質でありますが、 3社による結果では、クロム、マンガン、6価クロムなどは計量限界値未満、 環境基準値未満です。 現地対策班のその後の調査によりますと、 最初の衝撃発生の増倍管が9個の範囲内でほぼ同定されています。 この増倍管はタンク底面の隅に近いところにあります。 このうちの1個から爆縮が起こった可能性が最も高いと考えられます。 スーパー神岡での通常の現象頻度は10 Hz程度ですが、データ取得コンピュータ からの情報によると、事故直後に信号頻度が100万Hz 以上に上がり、 計算機のメモリ限界を超え、詳しい衝撃伝播のデータは残っていません。 (頻度上昇後、30ミリ秒のみ断片的なデータが存在します。) 一方、衝撃波伝播に関する、ある簡単なシミュレーションによりますと、 隣りあう球への爆縮の伝播に約10ミリ秒かかるようです。 従って、観測データから最初の爆縮の情報は得られましたが、衝撃波の伝播 の情報は得られませんでした。 最初の球が破壊した原因の推測として次のようなことが考えられます。 1.改修工事中に発砲スチロールを底面にのせて作業して加重をかけたため、 ストレスがかかった。 2.水を完全に抜いた状態で、地下水からの圧力で底面ステンレス板が破損し水 が噴出した。そのため、原因球付近のステンレス板が数cm跳ね上がった。 しかしながら、事故原因の最終的特定は現在のところできておりません。 今後の原因究明の方針として、衝撃波シミュレーションと衝撃テストを行いたい と考えております。衝撃テストは排水する前、今後1月以内に実施するのが効率 的です。 以上が事故報告と11月22日現在までの原因調査の概略です。 今後、原因究明等委員会での配布資料と議事録をホームページ等で公開する ことになっておりますので、ご関心のある方はご覧になってください。 最後に、一言、述べさせて頂きます。 ニュートリノ物理に画期的な成果をあげたスーパー神岡実験が少なくとも当分の 間、続行できなくなりました。 当面の課題は、厳正で透明性のある客観的な事故原因の特定であり、早期の解明 に向けて微力ながら全力を傾ける所存です。 世界をリードするニュートリノ実験を絶やすことがないように、今後とも皆様方 のご支援を賜りますようにお願いします。 また、原因究明に関わる学問的なご助言を頂ければ幸いであります。 平成13年11月26日 東京大学宇宙線研究所長 吉村太彦