<<<<<<<<<<<<<< CRC News 2015年 10月 19日 >>>>>>>>>>>>>> CRC会員 各位                             CRC事務局 ****< 第10回日本物理学会若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)受賞者 >**** 日本物理学会 宇宙線・宇宙物理領域の皆様、 日本物理学会のwebページ http://www.jps.or.jp/activities/awards/jusyosya/wakate2016.php で公表されましたとおり、日本物理学会第10回若手奨励賞を 宇宙線・宇宙物理領域より推薦されたお二人が受賞されました。 ・道村 唯太 氏 所属:東京大学 大学院理学系研究科 研究:光リング共振器を用いたローレンツ不変性の検証 ・村瀬 孔大 氏 所属:ペンシルベニア州立大学 研究:超高エネルギー宇宙ニュートリノの起源 おふたりのさらなるご活躍を期待いたします。 また、来る春の年次大会ではお二人の受賞講演をしていただける ことになっておりますので、みなさま、ぜひお越しください。             宇宙線・宇宙物理領域代表 田代 信 以下は、審査委員会からの推薦理由です。 ==== ・道村 唯太 氏 所属:東京大学 大学院理学系研究科 研究:光リング共振器を用いたローレンツ不変性の検証 道村氏は、光速の異方性探査において世界最高精度での検証実験を行った。光 速の不変性は相対論だけでなく全ての物理法則の基礎となっているローレンツ不 変性と結びついている。その検証は極めて重要であり、直交する方向で往復する 光速の差を測るマイケルソン-モーレー型の実験、天体からのガンマ線を用いた 光速の偏光依存性や波長依存性探査など、多く行われている。道村氏は、光速の 行きと帰りの差、つまり片道光速の異方性に着目し、これまで検証されてこな かった高次の空間異方性について初めての上限値を与えるとともに、いくつかの 既存の上限値を更新した。本研究では、道村氏の独自の着想が随所に見られる。 単一レーザー光源を用いて非対称光リング共振器の時計回りと反時計回りの共振 周波数を比較するダブルパスと呼ばれる手法を用いるとともに、その光路上に屈 折率の高いシリコンを入れる構成を用いることで、高精度でのヌル測定(光速の 異方性 δc/c < 10^(-15) )を可能にしている。また、回転機構の工夫や回転に同 期した多くの雑音の同定と低減、1年を超える長期間のデータ取得とその解析と 物理的解釈といった、優れた研究遂行能力も示している。 道村氏の研究は宇宙の枠組みそのものを対象とした実験的研究である。新たな 手法を用いることで空間の異方性に対してかつてなく厳しい上限を与え、物理法 則の根源そのものをさらに強固なものにすることに成功した。また、本研究と並 行して、重力波望遠鏡KAGRAの開発研究・建設にも大きな貢献を果たし続けてお り、将来性も大いに期待できる。以上のことから道村氏を本賞に推薦する。 研究論文: "学位論文: Tests of Lorentz invariance with an Optical Ring Cavity" (東京大学2015 年学位授与)" "New Limit on Lorentz Violation Using a Double-Pass Optical Ring Cavity":Yuta Michimura, et al., Physical Review Letters 110, 200401 (2013)" "Optical cavity limits on higher order Lorentz violation": Yuta Michimura, et al, Physical Review D 88, 111101(R) (2013) ==== ・村瀬 孔大 氏 所属:ペンシルベニア州立大学 研究:超高エネルギー宇宙ニュートリノの起源  宇宙から飛来する宇宙線やガンマ線などといった超高エネルギー粒子は、様々 な高エネルギー天体現象によって作られたと考えられており、近年のさまざまな 実験により、その性質が明らかにされつつあるが、その全貌はいまだに明らかに されていない。そこで新たな観測手段として期待されているのが超高エネルギー ニュートリノである。長年の探索の結果、ついにIceCube実験にて検出された超 高エネルギーニュートリノは、TeVからPeVスケールにわたるエネルギーを持って おり、その起源と生成メカニズムを巡ってさまざまな議論が続いている。  超高エネルギーニュートリノの生成過程としては、 pγ反応とpp反応が有力だ が、IceCubeで検出されたシグナルがどちらなのか、特定には至っていない。ま た生成場所も、銀河系の内部なのか、それとも銀河系外によるものか、はっきり していない。いずれにしてもどういった天体現象(あるいは未知の素粒子現象) が起源となっているのかと密接に関係した問題であり、ニュートリノ以外の高エ ネルギー天文観測などとも照らし合わせつつ包括的な描像を確立する必要があ る。IceCubeのニュートリノシグナルを巡るこれら一連の問題に対し、村瀬氏は Ahlers氏、Lacki氏らと共同で、(1) Fermi衛星のガンマ線観測データとpp反応に よる超高エネルギーニュートリノ生成説の整合性について検討し、さらに、(2) 地上の高エネルギーガンマ線観測データとFermi衛星の観測成果を組み合わせ て、 超高エネルギーニュートリノの起源が銀河系内かどうかの可能性を追求し た。(1) では、pp反応によるガンマ線とニュートリノ生成の関係から、天体の種 類とエネルギースペクトル指数にきわめて強い制約がつくことを示した。(2)で は、銀河系内に分布する超新星残骸やパルサー風星雲などでIceCubeのシグナル を説明しようとするとガンマ線観測データの制限に抵触することを示し、系外銀 河説が強く支持されることを明らかにした。  これら一連の成果は、IceCubeの実験データの公表後、いち早く論文としてま とめられた。観測・実験グループからも注目され、出版から2年ほどしか経って いないにもかかわらず、高い被引用数を誇っている。また、超高エネルギー ニュートリノの起源解明に向けた次世代観測に多くの示唆を与えるなど、今後の 研究に対しても強い影響力を持つ成果である。村瀬氏は、この他にも、持続時間 が長く暗いガンマ線バーストを起源とする超高エネルギーニュートリノ生成のシ ナリオ提唱など、TeV-PeVスケールの宇宙ニュートリノに関して多くの研究を 行っている。現在も精力的にこの方面の研究を推し進めており、今後のさらなる 活躍が期待される。以上の理由から日本物理学会若手奨励賞の候補として推薦す る。 研究論文: "Testing the hadronuclear origin of PeV neutrinos observed with IceCube": K. Murase, M. Ahlers, and B.C. Lacki, Phys. Rev. D 88, 121301(R) (2013)" "Probing the Galactic origin of the IceCube excess with gamma rays": M. Ahlers and K. Murase, Phys. Rev. D 90, 023010 (2014)"