<<<<<<<<<<<<<< CRC News 2014年 10月 31日 >>>>>>>>>>>>>> CRC会員 各位                             CRC事務局 ***< 日本物理学会第9回若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)受賞者発表 >*** 皆様、 日本物理学会のホームページ http://www.jps.or.jp/activities/awards/jusyosya/wakate2015.html ですでに公表されていますが,日本物理学会第9回若手奨励賞を, 宇宙線・宇宙物理領域より推薦された以下の3名の方が受賞されました。 ・須山 輝明 氏 所属:東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター 研究:原始密度ゆらぎ生成機構の峻別法の発見 ・Roger Wendell 氏 所属:東京大学宇宙線研究所・神岡宇宙素粒子研究施設 研究:大気ニュートリノ振動において、タウニュートリノ出現の証拠を    世界で初めて観測 ・山口 弘悦 氏 所属:NASA ゴダードスペースフライトセンター / メリーランド大学 研究:非平衡プラズマのX線スペクトル解析による超新星残骸の起源と進化    の研究 以上3名の方の、今後のさらなるご活躍を期待いたします。 宇宙線・宇宙物理領域代表 手嶋政廣 以下は、審査委員会からの推薦理由です。 ==== 須山 輝明 氏 所属:東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター 研究:原始密度ゆらぎ生成機構の峻別法の発見 イ ンフレーション宇宙シナリオは,宇宙マイクロ波背景放射を用いた 宇宙原始ゆらぎの観測を通してほぼ確立され,より精密な観測実験により インフレーションの 詳細を決定し,そのメカニズムを解明することが 今後の中心課題となっている.現在,100を超えるインフレーション 模型が存在し,原始ゆらぎの振幅とスペ クトル指数がこれらを選別する 重要な情報として用いられるが,多様な模型から真の模型を特定するには それだけでは不十分である. この問題を解決 する手段として注目されてきた情報の一つが,ゆらぎの 統計的性質である.原始密度ゆらぎがインフレーションを引き起こす1個の スカラ場(インフラトン)か ら生成される最も標準的な模型では,ゆらぎ 統計は良い精度でガウス的となることが示される.これに対して, インフラトン以外の軽い場がゆらぎを生み出す模 型では,ゆらぎが大きな 非ガウス性を持つことが可能となる.須山氏は山口氏らと共同で,複数の 軽い場が原始ゆらぎに寄与する多様な模型についてゆらぎの非 ガウス性を 理論的に決定し,複数の場がゆらぎに関与することにより,非ガウス性が 増大するとともに,原始重力波生成が相対的に抑制されることを見いだした. さらに,副産物として,ゆらぎの非ガウス性を表す相関関数の2つの係数の 間に,ある一般的不等式が成り立つことを見いだした.この不等式は,現在, 須 山・山口不等式としてこの分野で国際的に広く知られており,ゆらぎが ガウス的統計変数の関数として表されるという仮定のもとで一般的に成り 立つ強力な不等 式である.さらに,特殊な場合を除き,等号が成り立つのは, ゆらぎが1成分の場により決定される場合に限られる.このため,ゆらぎ 生成機構について明確な 情報をもたらす不等式となっている.2013年に 発表されたPlanckのデータは,ゆらぎの非ガウス性について厳しい上限を 与えたが,インフラトン以外 に軽い場が重要となる可能性は排除されて おらず,ゆらぎ統計は依然として重要な情報となっている. 須山氏は,このように国際的にインパクトのある成果を上げとともに, 原始ブラックホール生成やゆらぎ散逸による宇宙加熱に着目した原始ゆらぎ への制限など,現在もインフレーション宇宙模型選別に関する研究を活発に 続けており,今後の活躍がさらに期待される. 研究論文: ``Non-Gaussianity, Spectral Index and Tensor Modes in Mixed Inflaton and Curvaton Models'', K. Ichikawa, T. Suyama, T. Takahashi and M.Yamaguchi, Phys. Rev. D 78, 023513 (2008). ``Non-Gaussianity in the modulated reheating scenario'', T. Suyama and M. Yamaguchi, Phys. Rev. D 77, 023505 (2008). ==== Roger Wendell 氏 所属:東京大学宇宙線研究所・神岡宇宙素粒子研究施設 研究:大気ニュートリノ振動において、 タウニュートリノ出現の証拠を世界で初めて観測 ニュー トリノ振動の発見により、ニュートリノが微小ではあるが有限の 質量を持つことが明らかになった。これは、ニュートリノの質量をゼロと している現在の素粒子 標準モデルの限界を示し、新たな素粒子理論の 糸口を与えるものである。Higgs粒子が発見され、素粒子の標準モデルが 確固たるものとなった今、逆に、そ の限界を破るニュートリノの振動研究は、 ますます重要となっている。最初のニュートリノ振動の証拠である大気 ニュートリノ振動は、ミューニュートリノがタ ウニュートリノに変化する 現象とされているが、これまで、ミューニュートリノが消滅することで しか現象を捉えられていなかった。これは、タウを生成するための ニュートリノのエネルギー閾値が高いことと、タウ自身の同定が事象ごと には困難であったからである。対象論文は、スーパーカミオカンデで収集 された 2806日分の大気ニュートリノのデータを用いて、タウニュートリノ の出現を、ニューラルネットワークを用いた統計的方法により、3.8シグマ という高い 信頼度で観測した。本研究により、大気ニュートリノ振動の モードが確実なものとなり、その学術的価値は大きい。また、候補者が 用いた、タウの出現をニュー ラルネットワークを用いて統計的に同定する という手法は、これまでにない非常に独自なものであり高く評価される。 候補者のロジャー氏は、大き な実験グループに属しているが、本研究は、 ロジャー氏が主体的に中心となって進めたものである。また、この研究の 後も、現在のニュートリノ振動研究におい て最も重要な課題である、 スーパーカミオカンデの3世代解析による、theta13の決定、質量階層性や CP非保存の研究などに著しい成果をあげており、 将来の活躍が期待される。 また、ロジャー氏は、物理解析だけでなく、実験グループにとって 必要不可欠なハードウエアに対する貢献も大きい。ア メリカの大学院に 在籍中も、アメリカ担当の外水槽の光電子増陪管、電子回路等の責任者 として、長期間に神岡に滞在していた。宇宙線研究所の助教になった後も、 解析の中心にいるだけでなく、スーパーカミオカンデの水担当グループの 中心メンバーとして活躍している。そして、2年に一回のニュートリノに 関する国 際会議で最も権威のあるニュートリノ国際会議(2014年)では、 実験グループを代表して、大気ニュートリノの新しい結果を報告して いる。ニュートリノ国際会議は、シニアな研究者が発表をおこなうのが 通例である。 ロジャー氏のハードウエアとデーター解析の両面によるこれまでの 成果は、氏が有望な若手であり、今後の物理学会をリードする人材で あることを示している。 研究論文: Evidence for the Appearance of Atmospheric Tau Neutrinos in Super-Kamiokande: Phy. Rev. Lett. 110, 181802(2013) ==== 山口 弘悦氏 所属:NASA ゴダードスペースフライトセンター / メリーランド大学 研究:非平衡プラズマのX線スペクトル解析による超新星残骸の起源と進化の研究 超新星爆発の残骸、超新星残骸では、爆発の莫大なエネルギーで噴出された 物質が、衝撃波で星間物質を加熱しつつ、宇宙空間にひろがっていきます。 ここで生じ たプラズマが電離平衡状態に達するまでには時間がかかり、 実際、多くの若い超新星残骸では、再結合過程に対して電離過程が優勢する 「電離優勢プラズマ」で あることが、X線スペクトル解析からわかっています。 ティコ超新星残骸もその一例です。山口さんは、Fe-Kβ蛍光輝線のエネルギー と強度という新しい視 点に着目することで、この超新星残骸中の逆行衝撃波に おいて、電子温度が1000倍に加熱されていることを示しました(論文1)。 宇宙における衝撃波の多 くは、無衝突衝撃波です。その衝撃波面で電子が 加熱されるメカニズムは未解決で、今回の発見はそれにも一石を投じる結果に なっています。 山口さん は、また、X線天文衛星すざくで観測した多数の超新星残骸を 系統的に解析し、鉄輝線のエネルギーと強度が超新星の型、Ia型と重力崩壊型 で系統的に異なる ことを示しました(論文2)。鉄輝線のエネルギーは電離度を 反映します。Ia型の方が低電離で、これは爆発前の星の周辺密度が低いことに 起因すると考えて います。超新星残骸のX線スペクトルから、超新星爆発の型 を判定する新たな指針になると期待されます。 少しさかのぼって2009年、山口さんは、 IC433という超新星残骸から放射性 再結合に伴う連続X線をはじめて発見し、プラズマがこれまでの常識とは逆の 「再結合優勢」であることも明らかにして います(論文3)。この発見を後を 追う形で、今までに他の復数の超新星残骸でも「再結合優勢プラズマ」が 発見されています。「再結合優勢プラズマ」の発生 要因に関しては議論が 続いていますが、最初の論文で提案された残骸進化初期の急速な断熱膨張に よるプラズマの急冷却説が有力です。 以上の3辺の発見論文でみられるように、山口さんは基礎物理に対する深い 理解と、観測データを読み解く際の注意深さによって新分野をきりひらいて います。加えて、原子物理学者と協力して、世界中の研究者が解析に使える スペクトルモデルの作成もしています。 研究論文: "New Evidence for Efficient Collisionless Heating of Electrons at the Reverse Shock of a Young Supernova Remnant", Hiroya Yamaguchi et al.,The Astrophysical Journal, 780, 136 (2014 January 10). "Discriminating the Progenitor Type of Supernova Remnants with Iron K-Shell Emission", Hiroya Yamaguchi et al.,The Astrophysical Journal Letters, 785, L27 (2014 April 20). "Discovery of Strong Radiative Recombination Continua from the Supernova Remnant IC 443 with Suzaku",Hiroya The Astrophysical Journal Letters, 705, L6 (2009 November 1). ************************************************************