<<<<<<<<<<<<<<<<<<< CRC News No.1262:2008年11月29日 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>> CRC会員 各位 CRC事務局 宇宙線研支部 *****< 日本物理学会第3回若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)受賞者発表 >***** CRC会員の皆様 すでに日本物理学会のホームページ (http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/WakateA/wakate2009.htm)で公表されています が,日本物理学会第3回若手奨励賞を,宇宙線・宇宙物理領域から推薦された下記 の3名の方が受賞されましたので,選考委員会による推薦理由とともにお知らせ します.今後のご活躍を期待します.                    宇宙線・宇宙物理領域代表 西嶋恭司                記 <実験分野> 中森 健之 氏(東京工業大学 理工学研究科基礎物理学専攻) 「CANGAROO-IIIを用いたパルサー星雲MSH 15-52の超高エネルギーγ線による研究」 (選考理由)中森 健之氏はCANGAROO-IIIによる、超新星残骸MSH 15-52のTEVγ線 による観測を自ら提案し、観測結果の詳細な解析を行った。その過程で、自ら開 発した解析方法を、かに星雲を用いて確認しながら本天体に適用するなど、結果 の確実性を高めるためのさまざまな工夫を行った。γ線イメージの解析から、放 射源が有意に広がっていることを確認し、それが超新星残骸よりむしろパルサー 星雲(Pulsarwind nebula)に付随していることを明らかにした。さらに、TeV γ線 の起源として、高エネルギー陽子が作るπ0中間子の崩壊(ハドロン起源)、および シンクロトロン自己コンプトン放射(SSC放射:レプトン起源) の2つの可能性を 検討した。TeVγ線の放射エネルギーはパルサーがスピンダウンすることにより供 給されると考えると、時間積分された全エネルギーは10^48-49 erg ほどとな り、ハドロン起源として必要とされるエネルギー(10^51 erg以上)に足りないこ とから、レプトン起源と考えざるを得ないことを示した。これに基づいて、この パルサー星雲に関する多波長観測データを総合し、SSC モデルとの比較を行っ た。その結果、磁場の強さは約17 μG、散乱される光子として、マイクロ波背景 放射だけでなく赤外線放射場を含める必要があること、高エネルギー電子として 要求される全エネルギーは10^48 ergほどで、パルサーからの供給で説明可能で あることなどを示した。この研究は、TeVγ線の観測結果をイメージとスペクトル の両面から詳細に解析し、電波からTeV領域までの広範囲にわたるパルサー星雲 の放射に対して、整合性のある解釈を与えたという点で極めて優れた研究であ る。中森氏は、トリガー装置の開発や、新たな解析ソフトウェアの開発を目指し てデータ解析グループを立ち上げるなど、若手研究者としてCANGAROOチーム内で 大きな貢献をしており、本研究を遂行する上でも、中森氏の独自の寄与は極めて 大きいと判断される。以上の点から、中森 健之氏は日本物理学会若手奨励賞に ふさわしい、優れた研究成果をあげたと認められるので、選考委員会として推薦 するものである。 <実験分野> 森 浩二 氏(宮崎大学工学部材料物理工学科) 「Chandra衛星による「かに星雲」のX線観測研究」 (選考理由)森 浩二氏はChandra衛星を用いて、「かに星雲」のX線による詳細 な画像とその時間変化を明らかにした。パルサーから放出されたプラズマが、光 速の約半分もの速さで、赤道方向と極方向(ジェット)という二方向へ流出する様 子、そのプラズマがパルサーを取り巻く直径3光年ほどのトーラスとして回転す る様子を、見事な動画として示した。これは、Chandra衛星がもたらした数多く の成果の中でも、特筆すべきものとして世界的にも大きく注目されている結果で ある。さらに森氏は、観測領域を2000以上のピクセルに分解しエネルギースペク トルの空間変化を解析した。その結果、ジェットのコアとトーラスが同程度の硬 いスペクトルと表面輝度を示すこと、トーラス内のスペクトルはきわめて一定だ が、外側でスペクトルが軟化していく様子を詳しく示した。これらは、パルサー 星雲(Pulsarwind nebula)の内部構造をはじめて詳細に明らかにした、重要な結 果である。20年以上前にパルサー星雲の標準モデルが作られており、これは磁気 流体衝撃波とシンクロトロン放射を仮定することで、「かに星雲」全体のエネル ギースペクトルや星雲全体が膨張する様子をよく説明するとされてきた。森氏の 研究から明らかにされたプラズマの速度分布やスペクトルの硬さの分布は、標準 モデルで仮定していた極端な粒子加速が実際は起きていないなど、さまざまな問 題を初めて観測的に明らかにした。本研究はパルサー星雲の描像を見直すきっか けを与え、この分野の研究を新たに活性化したという点でも波及効果の大きな研 究である。この研究は、主として森氏がペンシルバニア州立大学に研究員として 滞在中になされたものである。森氏は本研究の科学的成果を、自らが中心となっ て導き出しただけでなく、Chandra衛星のCCD のパイルアップ現象を取り除くた めのデータ解析ソフトウェアを開発・整備するなど、データ解析の過程でも独自 の貢献を行っている。以上の点から、森 浩二氏は日本物理学会若手奨励賞にふ さわしい、優れた研究成果をあげたと認められるので、選考委員会として推薦す るものである。 <理論分野> 大栗 真宗 氏(Stanford大学, KIPAC) 「非球対称性を取り込んだ銀河団重力レンズモデルの構築」 (選考理由)受賞対象となった大栗氏の仕事は、宇宙モデルの決定に非常に重 要な役割を果たしている。現在の標準的宇宙モデルとしてCDM(冷たい暗黒物 質)理論があるが、その理論を基礎にした暗黒物質の分布予想と実際の観測結果 の間に大きなずれがあると思われてきた。受賞対象論文は、この問題に対して、 非常に自然な解決方法を提示したものである。すなわち、大栗氏は、三軸不等楕 円体モデルで観測結果を再解析し、観測とのずれがあるとされる銀河団A1689の 密度分布が三軸不等で、その長軸方向が視線方向と揃っているとすれば、CDM 理論と無矛盾であることを示している。これは、銀河団重力レンズデータの理論 解釈における三軸不等性の重要性をはじめて具体的に指摘したものとして、大い に評価出来る。また、モンテカルロ法を用いたこれらの解析手法は大栗氏が独自 に開発した画期的なものである。この手法により、非球対称性は理論的に期待さ れる重力レンズの確率を一桁増やすことを明らかにし、銀河団による重力レンズ アークの観測数と理論的予想の不一致問題も解決している。 さらに大栗氏は、理論研究だけに留まらず、稲田直久氏(理研)と共同でSDSSの 重力レンズクェーサー探索プロジェクトを主導し、最大分離角を持つ重力レンズ クェーサーを発見するなど、この分野の若手研究者の一人として今後の活躍が大 いに期待できる。                                  以上 ----------------------------------------------------------------------- ======================================