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【特集】国際宇宙ガンマ線天文台CTAの大口径望遠鏡、建設に向けて前進



最終デザインが確定した国際宇宙ガンマ線天文台 
チェレンコフ・テレスコープ・アレイ (CTA) の
大口径望遠鏡


2020年に観測開始を目指す国際宇宙ガンマ線天文台CTA(チェレンコフ・テレスコープ・アレイ)の主要な望遠鏡群、大口径望遠鏡(LST)の最終デザインが確定した。

大口径望遠鏡は、直径が7階建てビルの高さに相当する巨大な鏡を持ち、焦点距離は10階建てビルの高さにもおよぶ。その鏡を支える構造体と合わせると、重さは90トン。これがわずか20秒間で180度回転し、予期できない突発的な天体の高エネルギー爆発の観測にもいち早く対応する。「アレイ」という言葉が表すように、大口径望遠鏡は1台ではない。合計8台の大口径望遠鏡が、50台の中口径望遠鏡と72台の小口径望遠鏡と共に、地球の北半球と南半球の2カ所で宇宙ガンマ線の観測を行い、従来の10倍もの感度を実現する。

CTAは27カ国から1000人以上のメンバーが集まる国際プロジェクトであるが、この中でも日本は貢献は大きい。大口径、中口径、小口径の3種類のうち、日本が貢献するのは最も難度の高い大口径望遠鏡(LST)である。直径23メートルの鏡で低エネルギー領域のガンマ線がつくり出す大気チェレンコフ光をとらえ、より遠方の宇宙から伝搬してくるわずかなガンマ線のシグナルをとらえる。



CTA LSTプロジェクト代表を
つとめる宇宙線研究所
手嶋政廣教授


2014年1月14-17日に東京大学柏キャンパスで開催されたCTA LST国際会議では、8カ国から80名のメンバーが集まり、大口径望遠鏡の鏡やエレクトロニクス、カメラ、構造体などの構成機器の最終デザイン、またCTAのもたらすサイエンスや、今後のスケジュールを議論した。

CTA LSTプロジェクト代表をつとめる宇宙線研究所手嶋政廣教授は、プロジェクトの進捗と今後について、「最初の建設へ向けての準備が完了しました。3月の建設サイト決定後、なるべく早く現地の土台部分を早急につくれるように働きかけていく必要があります」と述べた。



構造体チームを率いるマッ
クス・プランク物理学研究所の
トーマス・シュバイツァー
研究員


日本グループが担当している鏡は試作品も完成し、最終デザインもほぼ完了している。カメラに使用される光電子増倍管はすでに納品され、テレスコープ間のインターフェース部分やエレクトロニクスもデザインが決定した。ドイツのチームが担当している構造体は、材料に従来のスチールより軽量で強度のあるカーボンファイバーという新素材を使用するため、シミュレーション研究などを慎重に重ねてきた。「順調に進展しているといえます。マイナーな課題点を克服し、6ヶ月以内には発注をかけたいと思っています」と構造体チームを率いるマックス・プランク物理学研究所のトーマス・シュバイツァー研究員。2016年に開始する建設作業に向けて、機器の生産に入る。

CTA建設には、天文学や物理学コミュニティから高い関心がよせられている。会議初日の物理セッションでは、暗黒物質や量子重力などの基礎物理から、活動銀河核サーベイ、ガンマ線バーストの観測、宇宙の進化、銀河系内超新星爆発のモデルなど、幅広いCTAサイエンスについて議論された。「宇宙線全体、天文学全体として、現在建設中の重力波望遠鏡KAGRAの次はCTAが続きますので、ぜひサポートいただきたいと思います」とエレクトロニクス・チームを率いる京都大学の窪秀利准教授はコメントする。

CTA物理チームは、現在、キーとなるサイエンスプロジェクトの定義や解析ツールの開発に着手している。CTA稼働開始後1年の準備運転期間はコンソーシアムが優先的に利用する。



CTA銀河系外物理チームを率いるマックス・プランク物理学研究所の
ダニエル・マジン研究員


「銀河系外のガンマ線源として、現在までに50ほどが見つかっています。CTAはこれの5から10倍のガンマ線源を見つけることができるでしょう」とCTA銀河系外物理チームを率いるマックス・プランク物理学研究所のダニエル・マジン研究員。これらのガンマ線源は、超重量の巨大ブラックホールだと考えられている。この強大な重力に引き寄せられ周りを周回する物質は、ブラックホールに落ちるか、あるいは周回している物質が構成しているディスクに垂直の方向に吹き上げられ、プラズマ状のジェットとなる。このジェットの中で電荷を持った粒子が高エネルギーにまで加速される。

「CTAは大変高い時間分解能を持ち、天体の変化を秒単位で観測することができます」とマジン氏。「他のガンマ線望遠鏡での同時観測によるデータを用いて、われわれの持つ活動銀河核のモデルを比較することが可能になるでしょう。」

銀河系外から長距離を伝搬してくるガンマ線は、宇宙の進化をそのまま伝えるツールでもある。ガンマ線は、地球に到達するまでに、銀河の中のダストや低エネルギー光子と反応し、スペクトルにその形跡を残す。さまざまな距離、すなわちさまざまな時代の宇宙から現在までの星密度や生成率を研究することで、宇宙がどのように進化してきたのかがわかる。マジン氏は「うまくいけば、今までは超新星爆発などの他の手法でしか調べることのできなかった、(宇宙の大きさの指標である)ハッブル定数がどのように変化してきたかを、初めてガンマ線観測により確定することができるかもしれません」と説明する。

また、CTAの高い時間分解能と感度を利用すれば、チェレンコフ宇宙ガンマ線望遠鏡として初めて、ガンマ線バーストという非常に短い(しかし宇宙で最も明るい)輝きを、年間1から5個とらえることも可能になるだろう。



インド、サハ原子核物理研究所
のプラティック・マジャンバー
研究員


銀河系内の超新星爆発からやってくるガンマ線を調べることによって、1世紀もの間謎に包まれていた、宇宙線の起源についても明らかになると期待されている。「地球に到来する宇宙線がどこでどのように生成され、高エネルギーにまで加速されたのか、またどのエネルギーまで加速されるのかを、CTA観測によって決着させることができるでしょう」とインド、サハ原子核物理研究所のプラティック・マジャンバー研究員。

重たい星が死を迎え爆発を起こす時、大量の物質が周囲にばらまかれ、高速度で星間物質に衝突し、ショック波面を形成する。ここで電荷を持つ粒子が高エネルギーにまで加速されると考えられている。電荷を持つ粒子は加速すると光子を放ち、これらの光子がさらに電子によって高エネルギーのガンマ線領域にまで上方散乱される。このガンマ線をとらえることで、加速メカニズムが明らかになる。



エレクトロニクス・チーム
を率いる京都大学の
窪秀利准教授


この他にも、暗黒物質候補の粒子が対消滅をおこす時に発生すると考えられているガンマ線の痕跡を探すなど、今までにない感度の暗黒物質探査望遠鏡としても期待されている。

「日本で会議を行えたことは、海外の研究者・技術者が日本で実際に手を動かしている学生たちと会って直接話す機会となりました。日本はLSTの中でも重要なアクティビティを持っていますし、今後の計画を進める上でもコラボレーションにとってメリットであったと感じます」と窪准教授は付け加える。現在約150名のCTA LSTメンバーにより、世界の8カ国で密に連絡を取りながら建設に向けて準備を進められている。半年後の会議に向けて、それぞれの構成機器の製造と試験が行われる予定だ。

Links:
CTA LST国際ワークショップ
CTA計画概要(日本語)
CTA Science In A Nutshell