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【プレスリリース】熱い酸素ガスを広範囲に放出する遠方銀河を発見:銀河進化の最終段階を目撃

発表者
  ユマ スラポン(Yuma, Suraphong)
(東京大学宇宙線研究所 日本学術振興会外国人特別研究員)
発表のポイント
 地球から90億光年離れた宇宙に、熱い酸素ガスを広範囲に放出している銀河を12個発見しました。ガスの放出範囲は最大25万光年になるものもあり、それぞれ銀河自身を超える大きさです。遠方銀河による酸素ガスの大規模な放出を系統的に探査・発見したのは本研究が初めてです。今回の発見は、銀河での星形成活動を終わらせる物理的メカニズムを解明するための大きなステップといえます。
概要
   東京大学宇宙線研究所のユマ スラポン 研究員と大内 正己 准教授の率いる国際研究チームは、すばる望遠鏡の広範囲の撮像観測により、地球から90億光年離れた場所に熱い酸素ガスを放出している銀河を12個発見しました。発見された銀河の酸素ガスの放出は、それぞれの銀河の大きさを超え、25万光年もの範囲に広がるものもあります。また、発見された銀河の中には、超大質量ブラックホールが存在するものもある一方、超大質量ブラックホールが存在せず星形成が活発な銀河もあることがわかりました。


 超大質量ブラックホールや星形成により生じた大量のエネルギーは、銀河の中のガスを温め、強力な熱い酸素ガスの放出をひき起こします。この過程で星形成に必要なガスが無くなることで星形成が終わり、銀河進化の最終段階に突入すると考えられています。熱い酸素ガスを広範囲に放出する遠方銀河の発見は、これまで不明であった銀河での星形成活動を終わらせる物理的メカニズムを解明する大きな手がかりとなる可能性があり、今後の研究が期待されます。

 なお、超大質量ブラックホールや星形成といったさまざまなエネルギー源により生じた、広範囲への酸素ガスの放出が発見されたのは、今回が初めてです。この成果は2013年12月10日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。

発表の内容
   天の川銀河のような銀河には、大量のガスの中で星が活発的に生まれている銀河もあれば、既に星の生成は終わり最期を迎えるのをただ待っているだけの銀河もあります。後者の銀河は「楕円銀河」として知られ、この銀河には数十億年よりも若い星は存在しないため、星生成は数十億年前、もしくはそれ以前に終わったと考えられています。この星形成の終わりは銀河進化の最終段階で起こりますが、その物理的なメカニズムはよくわかっていません。超大質量ブラックホールや星形成の熱により銀河からガスが飛び出すことが原因だと考えられていますが、これまでの観測では1つのエネルギー源でのみ調べられ、どのエネルギー源がどのように寄与することにより星形成が終わるのかを観測的に調べることはできませんでした。


 東京大学宇宙線研究所のユマ研究員は、宇宙の中の酸素が、恒星の中心で起こるような核融合反応によりのみ生み出されることに着目しました。酸素ガスを手掛かりとしてガスを放出している遠方銀河を探すのが良いという考えのもと、すばる望遠鏡の主焦点カメラであるSuprime-Camを使って、可視光の領域で電離した酸素ガスを放射している遠方の銀河を効率的に探しました。本手法は、エネルギー源が超大質量ブラックホールであっても星形成であっても有効です。

  探査はすばる・XMM-ニュートン深探査(Subaru/XMM-Newton Deep Survey : SXDS)領域で行われ、共同研究者の英国リヴァプール・ジョン・ムーア大学のアリサ・ドレイク(Alyssa Drake)博士が宇宙膨張による赤方偏移(注1)の効果を利用して探査・発見した遠方銀河を用いて行われました。ユマ研究員は、この遠方銀河のサンプルから、酸素ガスを放射する銀河を系統的に割り出しました。

 この探査で、10万光年以上(天の川銀河の大きさに相当)の領域に酸素ガスが広がっている12個の銀河を発見しました。酸素ガスの空間的な広がりから、このような銀河を「[OII](オーツー)ブロブ([OII] blob)」と名付けました。すばる望遠鏡の画像(図1)を見ると、酸素ガス(赤色)が銀河の星よりも広範囲に存在していることがわかります。



(図1) すばる望遠鏡の観測データによるカラー合成イメージ。それぞれ、[OII]ブロブ1とその周辺領域(中央の大パネル)、[OII]ブロブ1の拡大図(右上の中パネル)、他11個の[OII]ブロブ2〜[OII]ブロブ12(左右の小パネル)。小パネルの各辺はそれぞれ40万光年に対応する。比較のため、右上パネル左上に、[OII]ブロブと同距離にあると想定した場合のアンドロメダ銀河画像(ロバート・ジェンドラー(Robert Gendler)氏提供)を表示している。 クレジット:国立天文台、東京大学(Suraphong YUMA)

 [OII]ブロブでは、一年間に太陽の10から100倍の重さのガスから星が活発に生まれています。しかし、成長した[OII]ブロブでは、星形成が活発な同じ重さの銀河よりも生成される星の量が少ないことがわかりました。同研究グループを率いる東京大学宇宙線研究所の大内正己准教授は、成長した[OII]ブロブは、ガス放出により星形成の終わりをむかえているのだと考えます。計算によると、探査を行った時代の星形成銀河の約3%がガス放出の段階にあることがわかり、銀河の形成・進化を理解する上で重要な新しい知見が得られました。

 発見された[OII]ブロブのうち2つでは、すばる望遠鏡とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)による可視光領域の分光観測でもガス放出が確認されました。共同研究者の英国リヴァプール・ジョン・ムーア大学のクリス・シンプソン(Chris Simpson)上級講師による分光観測の結果、超大質量ブラックホールや星生成により放出されたと考えられるガスによる吸収が確認されました。

 また、発見された[OII]ブロブのうち1つでは、ガス放出の速度が秒速600kmと非常に速く、超大質量ブラックホールによるガスの強い流れが起こっていると考えられます。[OII]ブロブ1と名付けられたこの銀河は、本研究で発見された[OII]ブロブのなかで最大のもので、天の川銀河の2倍以上の大きさ、および25万光年もの範囲に広がる酸素ガスでできています。この巨大な[OII]ブロブはX線観測でも確認が可能で、超大質量ブラックホールが活動していることがはっきりとわかります。共同研究グループの筑波大学の梅村雅之教授は、この銀河は超大質量ブラックホールによるガス放出の謎を解く重要な鍵になるかもしれないと考えます。

この結果は2013年12月10日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。今回の研究は日本学術振興会の科研費・基盤研究A(23244025)によるサポートを受けて行われました。

発表雑誌
  雑誌名:Astrophysical Journal 12月10日発行 論文タイトル:First Systematic Search for Oxygen-Line Blobs at High Redshift: Uncovering AGN Feedback and Star Formation Quenching 著者:Suraphong Yuma*, Masami Ouchi, Alyssa B. Drake, Chris Simpson, Kazuhiro Shimazaku, Kimihiko Nakajima, Yoshiaki Ono, Rieko Momose, Masayuki Akiyama, Masao Mori, and Masayuki Umemura

DOI番号:10.1088/0004-637X/779/1/53
アブストラクトURL:http://iopscience.iop.org/0004-637X/779/1/53/article

問い合わせ先
東京大学宇宙線研究所 広報担当 林田
Tel: 04-7136-5148
E-mail: misato@icrr.u-tokyo.ac.jp


用語解説
 
(注1)宇宙膨張による赤方偏移
宇宙は膨張しているため、銀河から発せられた光の波長は、地球に届くまでに引き伸ばされます。波長の長い光である赤色の方向に偏移することから、赤方偏移といいます。距離が長ければ長いほど波長はより多く引き延ばされるため、銀河からの光の色を正確に測定することで、地球と銀河の距離を計算することができます。

添付資料
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