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【プレスリリース】宇宙の夜明けにある巨大天体ヒミコの姿が ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡の観測で明らかに


ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡による最新の観測データを使って、天文学者たちは巨大天体の正体に迫りました。観測データからは複雑な構造が描き出され、この巨大天体は希な三体合体を起こしていることが分かりました。そして驚くべきことに、ビッグバンで生成されていない元素(ここでは重元素と呼ぶ)が発する電波が検出されず、これが原始的な古代の天体であることが分かりました。この巨大天体は、すばる望遠鏡で発見されたヒミコと呼ばれる天体で、宇宙が8億歳だった時代(現在の宇宙年齢の僅か6%の時代)に存在するものです。ヒミコという名は弥生時代後期における倭国の女王卑弥呼に由来しています。今回の観測結果は、宇宙が星々の光で満たされ始めた「宇宙の夜明け」と呼ばれる時代において、銀河が作られる最初の過程を明らかにする上で重要な知見を与えました。

2009年、すばる望遠鏡によりヒミコが発見され、5万5千光年に広がった熱く輝くガス雲を持つヒミコの並外れた性質が明らかにされました。この大きさは、ヒミコが存在した時代にある普通の銀河の10倍にもおよび、現在の天の川銀河の半径に匹敵するものです。初期のスピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線観測により、ヒミコが非常に重たい天体で、その質量は太陽の数百億倍にもおよぶことが分かっています。同じ時代にある銀河の質量と比べて桁で大きいです。これまで天文学者たちは、ヒミコは天体形成の中で特殊な時期にある天体で、例えば巨大ガス雲から銀河が出来る時の姿であったり、二つの若い銀河が衝突している姿なのかもしれないと予想していました。天文学者の頭を悩ませていたのは、輝き続ける巨大ガス雲のエネルギー源が何であるかという謎でした。

ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡はそれぞれ近赤外線と電波観測において比類無い感度と解像度を誇っています。これらの極めて優れた望遠鏡を使ってヒミコの謎にメスが入れられました。「我々はヒミコに対して、普通では行えないほどの超高感度観測を行って、その深部の構造に迫りました。この観測により、今まで謎だったヒミコの全体像を明かすことに成功しました。しかし、同時に予期せぬ結果も出てきたのです。」こう話すのは
日米の研究者からなる国際研究チームを率いた大内 正己 東京大学准教授です。大内准教授は続けて「ハッブル宇宙望遠鏡のデータから、ヒミコの中に3つの星の集団が隠されており、それらがもつ活発な星形成活動がヒミコの巨大ガス雲を輝かせるエネルギー源だと考えられます。ただ、アルマ電波望遠鏡のデータに、通常見られるダストや炭素ガスが放つ電波シグナルが見られなかったことが新たな問題として出てきました。つまり、ヒミコは非常に激しい星形成活動を行っているにも関わらず、その際に出される炭素などの重元素の電波が見られないのは何故か、という問題です。」

図1にあるハッブル宇宙望遠鏡の画像には、2万光年を越えて一直線に並んだ3つの星の集団が写っています。1つ1つの集団は、ヒミコと同じ時代の典型的な銀河と同じくらいの明るさです。巨大な水素ガス雲がこれら3つの星の集団を飲み込んでいます。際立って明るい光源がないことから、ヒミコの活動性の原因が、超大質量ブラックホールではないことが分かりました。

「ハッブル宇宙望遠鏡の画像から、ヒミコの中では非常に稀な三体合体が起こっていることが分かりました。」チームメンバーでカリフォルニア工科大学のリチャード・エリス教授が加えて発言しました。「さらに、3つの星の集団は異なる色をしているので、重力レンズ効果によりヒミコが見かけ上大きくなっている可能性は無いでしょう。興味をそそられるのは、星の集団のうち一つが、極めて青い色をしていて、重元素をほとんど含まない若い星の集まりであると考えられることです。これがアルマ電波望遠鏡の観測結果を説明する手がかりになるかもしれません。」

「私たちのハッブル宇宙望遠鏡の画像と最新のスピッツアー宇宙望遠鏡の赤外線データとを合わせて解析して、ヒミコでどのくらいの星が作られているかを見積もることができました。」チームメンバーで、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのマシュー・アシュビー博士が発言しました。「これにより、ヒミコの中で、1年に約100倍の太陽質量におよぶガスが星に変わっていることが明らかになりました。おそらく、この激しい星形成活動が巨大で熱いヒミコを覆うガスを温め続けているのでしょう。」

しかし、驚くべきことにアルマ望遠鏡の観測データには炭素ガスさらには星形成活動により温められたダストなどの重元素が発する電波が全く見られませんでした。ずば抜けた感度を誇るアルマ望遠鏡をもってしても、これらの電波が見つからないほど暗いというのは、非常に不思議なことです。

「ヒミコからは固体や気体の重元素が発する強い電波が出ていません。」チームメンバーの河野孝太郎教授が言いました。「星形成活動があれば、超新星爆発が起きるため、ダストと呼ばれる炭素や酸素、ケイ素などからなる固体微粒子が作られます。ダストは若い大質量星から出される紫外線によって温められて、暖まったダストが電波を放射するのです。このような電波のシグナルはヒミコには見られませんでした。さらに驚くことに、炭素ガスが発する電波すらも見あたりませんでした。」

これらの事から、ヒミコを構成するガスは、ビッグバン直後に作られた水素やヘリウムといった軽元素からなる原始ガスに近いのではないかと天文学者たちは推測しています。もし本当であれば、これは画期的な発見で、ヒミコはまさに形成中の原始銀河なのかもしれません。

リチャード・エリス教授はこの状況をまとめるように言いました。「天文学者は天体からの光や電波などのシグナルを捉えた時に興奮するのが普通です。しかし、今回の場合はこれとは逆なのです。天体の重元素が放つはずのシグナルがヒミコに見られなかった、という結果に私たち天文学者はゾクゾクと興奮しているのです!」

今後は、ヒミコに含まれる重元素が本当に僅かなのか、さらなるALMA電波望遠鏡の詳細観測で明らかにしていく計画です。皆様による本研究へのサポートはこちらから行うことができます。

本研究は2013年12月1日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。この研究は宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)の研究資金を通してアメリカ航空宇宙局(NASA)から資金援助を受けています。STScIはNASAの協定NAS 5-26555の下、天文学研究大学連合により運営されています。本研究に参加した研究者の一部は、文部科学省の世界トップレベル研究拠点事業(WPIプログラム)と日本学術振興会の科学研究費基盤A(23244025)からの援助を受けています。この研究はADS/JAO.ALMA#2011.0.00115.Sのアルマ望遠鏡のデータを使用しています。アルマ望遠鏡はチリ共和国と連携し、NRC(カナダ)、NSCとASIAA(台湾)の協力の下におけるESO(協力国の代表名)、NSF(アメリカ)、NINS(日本)の共同事業です。合同アルマ観測所はESOとAUI/NRAOとNAOJによって運営されています。この研究はスピッツアー宇宙望遠鏡の観測データを用いています。スピッツァー宇宙望遠鏡はNASAとの協定の下、カリフォルニア工科大学のジェット推進研究所(JPL)により運用されています。本研究には、カリフォルニア工科大学JPLを通じてNASAが提供した研究資金が用いられています。



(図1) ハッブル宇宙望遠鏡、すばる望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡のデータから作成されたヒミコのカラー合成写真。左側のパネルはハッブル宇宙望遠鏡が捉えたヒミコとその周辺領域です。ここでヒミコは中心の四角形の中に位置します。右側の2つのパネルはヒミコの拡大画像で、上がハッブル宇宙望遠鏡の画像、下がハッブル・すばる・スピッツァー望遠鏡の画像です。ハッブル宇宙望遠鏡の画像ではWFC3カメラにより撮影された0.98, 1.25, 1.6ミクロンの近赤外線3バンドのデータをそれぞれ青、緑、赤で表示しています。ハッブル・すばる・スピッツァー望遠鏡の画像では、ハッブルWFC3カメラの3バンドで合成した近赤外線を緑、すばるシュプリーム・カムで捉えたライマン・アルファ輝線を青、スピッツァーIRACカメラで得られた3.6ミクロンの赤外線を赤で表示しています。
クレジット:NASA, ESA, 東京大学(大内正己)






(図2) ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ電波望遠鏡の観測で得た知見を元に描いたヒミコの想像図。(左)。比較のために現在の星形成銀河の想像図を右に示します。現在の星形成銀河は重元素ガスが放つ様々な電磁波とダスト(図上で黒く見える)が多いです。一方でヒミコは原始ガスに近く、重元素ガスやダストが少ないです。
画像提供:国立天文台


【発表雑誌】 
雑誌名:
 Astrophysical Journal 2013年12月1日
論文タイトル:
 AN INTENSELY STAR-FORMING GALAXY AT Z~7 WITH LOW DUST AND METAL CONTENT REVEALED BY DEEP ALMA AND HST OBSERVATIONS
著者:Masami Ouchi*, Richard Ellis, Yoshiaki Ono, Kouichiro Nakanishi, Kotaro Kohno, Rieko Momose, Yasutaka Kurono, M. L. N. Ashby, Kazuhiro Shimasaku, S. P. Willner, G. G. Fazio, Yoichi Tamura, and Daisuke Ion

オンラインでアクセスできるURL:
http://adsabs.harvard.edu/abs/2013arXiv1306.3572O

DOI番号: 10.1088/0004-637X/778/2/102
ArXiv URL: http://arxiv.org/abs/1306.3572

【発表者】
 東京大学宇宙線研究所 准教授 大内正己


【問い合わせ先】
 東京大学宇宙線研究所 広報担当 林田
 TEL: 04-7136-5148
Email: misato@icrr.u-tokyo.ac.jp

【添付資料】
★画像は下記より一括でダウンロードいただけます。
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【関連リンク】
米国立電波天文台(NRAO) 共同リリース「Infant Galaxies Merging Near 'Cosmic Dawn'」
国立天文台(NAOJ) 共同リリース「アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で迫る宇宙初期の巨大天体ヒミコ」
観測的宇宙論グループ